漢方外来
通常の診察よりも余裕のある時間を取った専門外来です。
専門医による保険を利用した生薬の処方も可能です。
漢方固有の理論
漢方は1000~2000年も前から理論的に完成されていて、その後の長い時間、治療を担ってきた歴史があります。
そして製薬方法の進歩から、現在の日本では多数のエキス剤が保険適応となり、数十分煎じてやっとできあがる漢方薬のイメージは一新され、簡単に服用できるようになりました。
漢方には固有の理論があります。西洋医学にはないものの一つに気・血・水・熱・精があります。
気
「気」は人体の生理機能を動かすもので、不足すると元気がでない、体がだるいとなり、人参の入った補中益気湯を用いますが、胃もたれや食慾不振などの消化機能が低下している場合は、消化機能を高める薬を合わせた六君子湯を用います。
気分が鬱してやる気がでない時は「気」がうまく流れないためで、気の流れを良くする柴胡を用いた抑肝散を用い、さらにイライラが強いようであれば柴胡加竜骨牡蛎湯を用います。
血
「血」は人体を栄養するもので、不足すれば顔色が貧血様に悪くなり、肌は荒れ、女性では月経異常が起こります。若い女性は月経のために血の不足が起こりやすく、この場合は血を補う当帰などの入った四物湯をベースにした当帰芍薬散を用いますが、止血薬の入った温経湯や芎帰膠艾湯などを用いることもあります。
どす黒い顔色や目のくまや帯下などは「血」がうまく流れないために鬱滞した古血(悪血)の色で、この場合は血の流れを良くする桃仁を用いた桂枝茯苓丸を用いますが、古血(悪血)の血塊が想定されれば、これを一気に下す桃核承気湯を用います。
水
「水」は人体を潤すもので、不足すると水不足となり、皮膚は乾燥しますが、内臓も水不足すると考えられています。例えば肺が乾燥すれば痰が粘稠となって出にくくなり激しくせき込むが、気道を潤す麦門冬の入った麦門冬湯や滋陰至宝湯を用います。
「水」が鬱滞すれば浮腫みや尿量減少となりますが、この場合は水の流れを良くする茯苓の入った五苓散を用います。水が頭部に溜まって頭痛を来す場合や、耳に溜まってめまいがする場合、急性胃腸炎で下痢する場合にも五苓散は用いられます。
熱
「熱」は人体を温めるもので、不足すると寒がり、冷え性となります。
この場合は生姜や附子を用いますが、冷える場所によって、胃腸の場合は人参湯や大建中湯、風邪の場合は麻黄附子細辛湯、冷えて水の鬱滞を伴えば真武湯、冷えて手足が痛む場合は桂枝加朮附湯、リウマチのように冷えて痛むが関節部だけは熱をもつ場合は桂芍知母湯を用います。
「熱」が多くて顔色が赤くてのぼせ、イライラする場合は、熱冷ましの黄連の入った黄連解毒湯や、大黄の入った三黄瀉心湯や防風通聖散を用います。
「熱」が分離し、上半身は熱が鬱滞してほてり、のぼせがあり、下半身は熱が不足して冷える場合は冷えのぼせと言われ、上半身用に黄連・大黄を、下半身用に川芎・桂枝を用います。
例えば口内炎や胃腸症状が主体であれば半夏瀉心湯や黄連湯、更年期障害では女神散、皮膚疾患では治頭瘡一方や柴胡清肝湯を用います。
精
「精」は腎精のことで、生まれ持っての体格の大小や腎-膀胱と関連し、生殖とも関係するものです。
精が不足すれば足腰が弱り、多尿となり、生殖能力も低下します。精を補う薬は保険にない物が多く、特に生殖に関係する薬は鹿茸やなどの高価なもので入手も困難です。
漢方には、以上の気・血・水・熱・精に対する学説以外にも、臓腑を中心とした臓象学説、いろいろな病邪に対する病邪弁証、特に熱病に対する傷寒論や溫病学説などがあり、それらを使い分けるだけでなく、さらに人体個々の体質の違いや症状の違いもあるので、臨床で最適な薬物の組み合わせは限りなく多くなります。
しかしながら現在保険適応されているエキス剤は100処方程度しかないので、エキス剤による治療は、とある処方の中に必要な薬物が入っているかどうかで決定し応用するか、またはいくつかの処方を組み合わせて行っています。
煎じ薬であれば、もっとも適した薬物の組み合わせによる処方を作ることができるので、エキス剤だけでは限界がある場合は、煎じ薬をお勧めしています。